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VBACって何?そのリスクの大きさ
「VBAC」って何?という方、自分には関係ないけど興味のある方、帝王切開したけれど次の出産についてまだ考えたことのない方のために、VBACの基礎知識をまとめました。
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【目次】
- VBACの基礎知識
- 超えなければならない様々なハードル
- VBACの適応条件
- VBACにチャレンジできるか?判断の難しさ
- 成功する確率、失敗する確率
- 医師・病院の方針
- 「1%」は高いのか?低いのか?
VBACの基礎知識
帝王切開を経験した人が次に経膣分娩することをVBAC(ヴイバック)といいます。
「Vaginal Birth After Cesarean」の略。
そしてこの「VBAC」を目指して経膣分娩にチャレンジすることをTOL(経膣試験分娩)といいます。つまり、チャレンジするだけでも大変なことなのです。
超えなければならない様々なハードル
帝王切開経験者も次の出産は経膣分娩したいと望み、「チャレンジしてみてダメだったらまた帝王切開で…」などと思う方もいらっしゃるでしょう。しかし、事はそんなに単純ではありません。VBACを考えるには、まず知っておかなければならない大切なことがたくさんあります。
【VBACと反復帝王切開】
1980~90年代より、欧米では帝王切開率の上昇に歯止めをかけるためにVBACが推奨されるようになった。
近年、日本でも帝王切開率が上昇。既往帝王切開妊婦の反復帝王切開は更に帝王切開率を増加させる一因になっている。
帝王切開は比較的安全な手術ではあるが、肺塞栓症(エコノミークラス症候群)のような合併症もあり、VBACを推奨する意見も多く出されている。
【リスク】
最も危惧されているのは完全子宮破裂。これは分娩経過中、急に発症することがあり、特に症状があらわれず、すぐにはわからないこともある。
完全子宮破裂となったら開腹手術が必要で、母体の子宮出血の止血困難などのために子宮摘出を余儀なくされる場合もある。
出血多量となった場合は母体も重症となる。胎児も臍帯が圧迫を受けるなどにより、低酸素状態に陥ることがある。
子宮が破れ、胎児が子宮内から母体腹腔内へ出てしまうと、胎盤も剥離するため酸素の供給が途絶える。
胎児の低酸素状態発生から17分以内に娩出されないと脳障害を起こす可能性がある。
不全破裂は全く無症状のことがあり、それを疑い手術をしてみて初めて診断がついたり、VBAC成功後の内診により発見されることもある。
VBACの適応条件
<経膣試験分娩(TOL)の条件・準備>
正期産(満37週~41週未満)であること
※予定日が超過した時点(満40週)でダメという考えも。
胎位異常のない単胎であること
胎児が大きすぎないこと
前回帝王切開が子宮下部横切開であること(お腹の表面の傷ではなく子宮の傷)
過去の帝王切開が1回であること(帝王切開以外の子宮の手術歴がないこと)
子宮破裂の既往がないこと
前回の帝王切開と同じ理由がないこと
患者がVBACを強く希望していること
患者本人と家族からインフォームド・コンセント(十分な説明を受けたうえでの同意)が得られること
分娩中ほぼ連続した分娩監視装置(胎児心拍陣痛計)による母児の監視を行う
万一の事態に備えた静脈(点滴)ルートを確保すること
緊急帝王切開への切り替えが迅速にできること
など…
<経膣分娩(VBAC)成功の条件>
自然陣痛(陣痛促進剤は使えない)
児頭が下降・固定すること(お産の進みが良いこと)
頚管が成熟していること
など…
子宮口の開きが悪い・微弱陣痛など、お産の進みが悪い場合は帝王切開に切り替える可能性が高い。
VBACにチャレンジできるか?判断の難しさ
子宮破裂の確実な予測は難しく、明確な判断基準もない。
娩前や分娩中に、子宮破裂がおこるかどうかを完全に予測する方法は今のところ無い。
参考所見として子宮の前回帝切創部付近を超音波検査で観察し、異常に薄い部位などがないかをみる方法があるが、これも確実なものではない。
分娩監視装置による胎児心拍異常が子宮破裂前に現れるので、胎児心拍異常が認められた時点で子宮破裂の疑いで緊急帝王切開を行うが、実際には破裂していないことも多い(お腹を開いてみなければわからない)。
成功する確率、失敗する確率
帝王切開の経験がない妊婦の子宮破裂は1万~2万人に1人だが、VBACの場合は100人に1人というデータもある。
帝王切開を受けた妊婦の40~70%がVBACに臨み、う60―80%が成功、その他はお産の進みが良くないなどの理由で途中から帝王切開になるという。
医師・病院の方針
リスクの高さを考慮しVBACは一切受け入れないという病院が多いが、患者の希望を極力取り入れて協力する病院、積極的に取り組んでいる病院もある。
また、同じ病院でも医師によって意見が違うので、健診のたびに担当医が変わる場合などは「大丈夫」と勧められることもあれば逆に「危険だ」断固反対されることもあり、戸惑う患者は多い。
患者が望むなら仕方がないが、自分の家族なら絶対にやらせないという医師もいる。
「1%」は高いのか?低いのか?
これらは私があらゆる資料から得た知識であり、全てが100%確実なものかどうかはわかりません。ただ、相当リスキーだということだけはハッキリわかりましたね。
帝王切開せずに経膣分娩することには、もちろんメリットも沢山あります。
まず、なんといっても母体の快復がぜんぜん違います。帝王切開産婦が術後何日間も後産で苦しみ何も食べられず、トイレにも行けず管から排泄し、数日経ってようやく腰を曲げてトイレへ行くのに対し、ついさっき普通分娩で出産したばかりの産婦さんは同じ病院の廊下を平気な顔してスタスタと歩いている。その姿を見て羨ましいと思うばかり。出産後すぐにゴハンが食べられる。シャワーを浴びることもできる。我が子を抱くことができる。 退院も早いし、帰宅してからの体もぜんぜん違います。
そんなメリットだけを考えれば、VBACできるものならしたい!と単純に思ってしまいます。でも100人に1人が子宮破裂…
あなたは この1%という確率を、高いと思いますか?低いと思いますか?
私はかなり高い確率だと考えます。たとえ考えられる全ての適応条件を満たしていたところで、破裂するときは破裂してしまうのです。しかも、現代の医学をもってしてもそれを予測する確実な方法がないという…
そして本当に破裂してしまったら、母体死亡、子宮摘出、大量輸血、新生児死亡、脳神経学的後遺症などの悲惨な結末が待っているのです。