モウコハン。

   

子宮内容物除去手術

翌日、夫・長男とともに再び病院へ。

この日はちょうど休診日。外来患者たちはいない。受付に来院を知らせて待合室で待っていると、すぐに手術室から声が掛かった。

看護師「中に着替えが用意してありますので、全部脱いでそれを着てください」

着替えが終わると、手術台に横になるように言われた。そして看護婦が私の右腕の血管に針を刺した。これは静脈に麻酔を入れるための針。

そのまましばらくの間、天井と睨めっこ。医師は入院患者の診察で忙しい。すぐ隣の診察室からは「子宮の収縮がイイね~順調だね~」という医師と産婦さんの楽しそうな会話が聞こえてくる。

私も数ヶ月後にはこんな会話をしていたハズだったのに…

子宮内容物除去手術

20分くらい待っただろうか。ようやく医師と看護師たちが来た。お腹から下は既にカーテンがひかれ、私からは医師の姿は見えなかった。

看護師が「麻酔入れていいですか?」と医師に聞く。そして私に「すぐに眠くなりますから、そのまま寝ちゃってくださいね」と言うと、麻酔薬を入れはじめた。

同時に、吸い込まれるように脳が眠っていくのがわかった。とても不思議な感覚。気持ちいいくらいスーッと… 深~い、深~いところへ吸い込まれていく。

麻酔が効き始めてから数分間は、まったく記憶がない。でも途中で少しだけ覚めて、自分の体に金属の器具を入れられているのがわかった。子宮がチクチク痛むのも感じた。それから、看護師や先生の話声も断片的に聞こえる。そのときは誰が何を言っているのかわかるけど、一瞬にして忘れてしまう。

自分の頭の中では「もうすぐ終わるのかなぁ?」「麻酔ってすぐ効くんだなぁ~」なんてことを考えることもできる。部屋の外の廊下で長男が笑っている声も聞こえた。完全に眠っているわけではなくて薬の力で脳は眠っているけど 意識は起きている??

…なんとも説明のつかない不思議な状態だった。

そしてまた少し記憶が途絶えて…




目が覚めたら全て終わっていた

私を呼ぶ声がした。「○○さ~ん!お尻上げられますか?」

無意識に「はぁ~い」と返事をしながらお尻を上げたのを覚えている。手術が終わってショーツを履かせてくれたようだ。それからタオルケットを掛けられたのも覚えている。

そしてまた記憶が途絶えて… 気が付くと、部屋は静まり返っていた。

隣の部屋で看護師たちが話している声が聞こえる。もう終わったんだな… だんだん麻酔が覚めてきたのかな…

身体は動くのかなぁ?と思いながら手を動かしてみた。帝王切開のときと違って、身体は自由に動くようだ。でも、脳がまだ半分眠っているから、思うように動かすことはできない。

先生の足音がして「寝てる寝てる」という声。そして、夫と長男が部屋に入ってきたのがわかった。夫がヒソヒソ声で「ママ寝てるから静かにね」と言っている。

2人が側に来てくれたことで私の脳が急に目覚め始めた。でも、声にならない声で「パパ…」と一言発するのが精一杯。

夫「起きた?」

私「暑い…」(身体を冷やさないためか、エアコンが切られていた)

そしてそのまま、また記憶が少し途絶えた。ほんの数十秒間だったと思う。いつの間にか私は涙を流していて、夫はハンドタオルで私の涙を拭ってくれていた。

夫「泣かないで… ここに居るから、安心して寝てていいよ」

ゆっくりと時間が過ぎていく。

それから更に1時間ほど経った頃だと思う。看護師が来て「起きられるようなら起きてもいいですよ。起きられれば帰れますよ」

それを聞いたら、もう早く起きたくて仕方がない。フラフラとしながら上半身を起こしてみたけれど、やっぱりまだ無理みたい。座ったまま眠ってしまいそうだ。

なんとか上半身を起こしてから下半身の向きを変えるまで、更に10分くらいかかった。そして、やっとの思いで手術台から下りたけど、立つことができない。

手術台に寄りかかったまま動けない。ベッドをよく見ると、お尻のあった部分が真っ赤。自分のショーツも、着ている物も血だらけ。夫に手伝ってもらいながらショーツとナップを替えて、かなり時間をかけて自分の服に着替えた。



診察・帰宅

そのあと先生の診察。私は朦朧とした状態で、夫と一緒に説明を聞いた。

今日から飲む薬のこと・次回の診察のこと・お風呂のこと…

そして最後に会計。受付のすぐ前のソファーで脱力したまま眠気と戦っていると、「会計いいですか?」の声。私は起き上がることができなかったので、夫に財布を渡し、お金を払ってもらった。

「今日はこのまま帰って寝るだけですよ。お大事に」

靴を履き、外へ出て車に乗るだけでも大変。昨日の説明で「車や自転車は運転して来ないでください。酔っ払い運転みたいな状態になっちゃいますから。」と言われていた。ホントにその通り!いや、それ以上! 車の運転どころか目がちゃんと開かないし、自分ひとりではマトモに歩くことさえできないのだから、日帰り手術の場合には家族の付き添いは絶対に必要不可欠だ。

家に着いたら布団へ直行。そのまま眠ってしまった。もちろんその日は家事なんかできない。まともに立てないし、座っているのもツライ。

夫は長男をお風呂に入れ、スーパーでお弁当を買ってきてくれた。その片付けもすべて夫がやってくれた。私の着替えも夫が手伝ってくれた。
…これじゃ、まるで寝たきりの老人みたいだなぁ。

でも、今の私にできるのは脱力したまま涙を流すことだけ…


稽留流産(子宮内胎児死亡)の記録
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