モウコハン。

   

胎児の心臓が動いてない!

妊娠判定からちょうど1ヶ月経ち、初めての妊婦健診。

前回の会計のとき、受付の人から「次回は血液検査しますので1万円ちょっと用意してきてくださいネ」と言われていたので、しっかりお金を用意して病院へ出掛けた。

妊娠判定の日にさっそく役所で貰ってきた新しい母子手帳に初めて書き込まれる日だ。

まず最初に診察室とは別の部屋で血圧や体重・お腹周りを測ってもらい、採血も済ませた。

そこにいたのは顔見知りの看護師だった。

看「あれ?ずっと(不妊)治療してましたよねぇ?」

私「そうなんです~」

看「あ~、おめでとうございます!!」

私「ここ3ヶ月くらい治療休んでたら妊娠できちゃったんですよ~」

看「へぇ~!そんなことあるんですね~良かったですねぇ!」

それは、私が夢にまで見た会話だった。

しんどい心の休憩所

「動いてない」

通い慣れた病院。見慣れた診察室。

医「どっちがいいかな~?こっちで見れるかなぁ?まだかなぁ?」

とりあえずベッドに横になり、お腹の上から診察してみることになった。ところが帝王切開の傷が邪魔になって、まだ小さな胎児はなかなか確認できない。

「あ~見えないね。じゃぁ、あっちで見よう」ということで、今度は内診台へ。

すぐ横のモニターに映し出された胎児は頭と体とにハッキリわかれて、3頭身にまで成長していた。

少し沈黙のあと

医「えーっと…ココに心臓があるんだけど…」
「動いてない……動いてないねぇ…」

一気に心臓が高鳴る。前回より大きくなり、はじめて人間らしい形になってきた我が子の姿に見とれていて、心拍のことはすっかり頭から消えていた。

確かに… 言われてみれば… 動いているはずの場所がぜんぜん動いていない!えっ!?まさか!!

医師は位置や角度を変えながら何度も確認してくれた。でもやっぱり、私の赤ちゃんはピクリとも動いていない。

内診はこれで終わってしまった。



「心臓が動いてない」

机に戻った医師は、一呼吸おいて、ゆっくり話しはじめた。

「心臓のところが、動いてないんだよね…」

私「もうダメっていうことですか?」

医「うん…そうだね…」

信じられない。信じたくない。妊娠判定のときには「赤ちゃんの袋が子宮の奥のほうにあるから流産しにくい」と言われていた。だから流産なんて無縁のものだと思っていたのに…

この現実をどう受け止めたら良いのか…茫然として言葉も出ない。さっき「おめでとう」と言ってくれた看護師もちょうどその場に居て、固まっていた。

医「これは旦那さんと一緒に来てもらわなきゃダメだなぁ。今日の夜、一緒に来られる?7時くらいに」

私「いや…そんなに早くは帰ってこられないと…」

医「じゃあ明日は?できるだけ早い方がいい」

私「連絡してみて、今日来られるようなら来ます。」

そして診察室を出た。

そのまま会計待ち。すぐに呼ばれた。受付の人も、妊娠判定の会計のときに「おめでとうございます!」と言ってくれた人だ。掛ける言葉もないといった様子で

「1,460円です」

用意してきた1万円札が虚しく財布の中に残っている。私は今にも溢れそうな涙を必死に堪えながら会計を済ませて、病院を出た。


  
涙が止まらない

長男に靴を履かせて病院の玄関を出たとたんに、涙がボロボロこぼれてきた。どうにも止まらない。目の前に停めてある自転車が涙で霞んで見えない。

とりあえず長男を自転車に乗せ、夫に電話した。でも話し中…。一刻も早く夫の声が聞きたかったのに。

仕方なくそのまま自転車に乗り、家の方向へ向かってフラフラと走りはじめた。涙で前がよく見えない。少し先の公園まで行って、あまり人気のないところで自転車を停め、再び夫に電話した。

夫「はいよ~もしもし?」

その声を聞いたらますます涙が溢れてきた。

私「パパ……」

その震えた声に

夫「どうした?何かあった!?」

私「今ね、健診で病院行ってきたんだけど…」

夫「うん」

私「心臓が止まっちゃってた…」

泣き崩れながら そう言った。

夫「えっ!?そんな………」

私「赤ちゃん死んじゃった…」

夫のため息がフーッ…と聞こえた。

私「今夜一緒に来てくれって。だから早く帰ってきて!」

夫「わかった。早く帰るから待ってて!」

電話を切って、泣きながら家までフラフラ走って帰った。



力なく…

もう夕方になっていた。

家に入るなり、私は崩れるように座り込んでしまった。

ベランダに干した洗濯物を取り込まなきゃいけない。

暗くなってきたから電気を付けなきゃ…

オムツを替えてあげなきゃ…

やるべきことは沢山ある。でも、座り込んだまま動けなかった。長男も私の様子が変だということを察したのか、いつもとは違って、何も言わずに私の顔を眺めていた。

しばらくして、長男は私の膝へ来て、向かい合わせで抱きついてきた。いつもおとなしい子ではあるけれど、いつも以上におとなしい。

私は長男の体温を感じながらまた泣いた。いつの間にか、長男はそのまま眠ってしまった。いつもなら、こんなことはあり得ない。まだ眠くなる時間でもないのに…

そして、そのまま1時間くらい経って、夫が帰ってきた。夫の仕事柄、こんなにスグに帰ってこられるハズもないのに、このときばかりは仕事を投げ出して帰ってきてくれたようだった。

夫は何も言わずに 私と長男を抱きしめていた。



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